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February 2322011

 風花やわれに寄り添ふ母の墓

                           加宮貴一

雪、淡雪、沫雪、雪浪、雪しまき、雪まろげ、雪つぶて、銀花、六花(むつのはな)、そして風花……雪の呼び方や種類には情緒たっぷりのものがある。雪と闘っている人にとっては「情緒もクソもあるものか!」と言われそうだけれど。豪雪とか雪崩、雪害などという言葉は人に好かれないが、「風花」はロマンチックでさえある。晴れあがった冬空のもと、それほど寒くもない日に、こまやかな雪片があるかなきかに風に舞う。雪景色のなかであればいっそう繊細な味わいが広がる。掲句はもちろん、母の墓が「われ」に寄り添ってきたわけではない。母の墓にお詣りして、しばし寄り添っている静かな光景であろう。そこへ舞うともなく風花がちらほら舞っている。作者の心は墓と風花の両方に寄り添っているのだろう。墓前でそんな束の間の幸福感に浸っている。「寄り添ふ」のはやはり「母の墓」でなくてはなるまい。雪国で雪が降りつづけたあと、からりと青空がのぞく日がまれにあって、そんな時ちらつく風花は冬の格別な恵みのように感じられる。作家・貴一には「戸隠に日あり千曲の秋時雨」他たくさんの俳句があり、本島高弓との共著句集『吾子と吾夢』がある。『文人俳句歳時記』(1969)所収。(八木忠栄)




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